風雨来記4と360度視点①

風雨来記4


上下左右に視点を動かせます


■「風雨来記4:母里ちあり編」について書きます。ストーリーのネタバレ有り。
■「自分はこう考えたよ」という、個人的な感想・考察記録です。
■ 記事内で、ゲーム内のスクリーンショットを、権利元様を表記した上で引用しています。

■ 特に記載のないイラストは、投稿者(ねもと)による非公式の二次創作です。



Youtube360動画、実写360写真・動画、360イラスト、360MV、360不動産屋内紹介……勉強のために、色んなメディアの360度作品を見れば見るほどに、風雨来記4の360度表現の活用っぷりは、群を抜いてめちゃくちゃ画期的なんじゃないかとあらためて思う。



これは、出発点が「360度技術で何かやろう」ではなく、企画したスタッフさんに最初から、「『旅』を表現するために、この技術を使い尽くしてやるぜ!」という熱い思いとアイデアがあったからに違いない、と勝手に思っている。



自分が360度カメラを使ったり、360度イラストを描いてみたりして思ったこと。

年末に360度カメラを買ってみて、あちこち撮ってまわった。
普通のカメラよりも、おもちゃ的な要素の強いメディアだと思った。
シャッターを切る瞬間には、どんな画像になるか分からないからだ。

「どんな写真が撮れるだろう、わくわく」というような感じ。

意識して四角の中に画を収める通常のカメラと違って、360度カメラはシャッターを押すと、その瞬間にその地点から見える360度すべての光景が撮影できる
これは、映像記録という点で特に優れている。


ただ、当たり前の話だけど、そもそもの人間の視界は360度ではない。
360度の画像、と言っても、それは360度全方位のデータを含んでいる画像であって、結局人間が一度に見られるのはその中の一部なのだ。。

それ故、作品、表現としての360度画像の欠点のひとつとして、「見て欲しいものへの視線誘導の難しさ」がある。

普通の写真やイラストなら、構図や色使いによって、ぱっと一目見た瞬間にその絵で見て欲しい部分に見る側の視線を誘導する技術が確立されている。

360度画像では、この平面画像での視線誘導のノウハウがそのままでは使えない場合も多く、見る側が、「どこを見ればいいのか」を見失うことが少なからずある。




もちろん「前にも後ろにも撮りたいものがある!」とか「360度写してはじめて意味が生まれる風景を撮りたい」「ただ空間の中で目的無くのんびり周囲を眺めてもらいたい」みたいに、目的意識に沿ったものならば、素晴らしい作品が撮れるだろう。

その場合もバランスが大事で、闇雲に情報を詰め込みすぎると見る側は疲れるし(これは自分の実体験)、ざっと流し見させたいなら動画の方が、表現媒体としては適している。

360度画像で何かを伝える場合、四角い枠の中に言いたいこと、伝えたいことを詰め込めて、一目で人の目にそれを届けることができる「写真」や「イラスト」のノウハウだけじゃなく、360度画像専用のノウハウ(構図とか視線誘導とかライティングとか)がきっと重要になる。
これからまだまだ発展していく途中の表現媒体なんだと思う。





あと、これが結構重要な問題なのが、見る側に求められる敷居の高さ。

360度視点を最大限楽しむために必要なVRゴーグル等のハード面。
対応アプリを導入する必要があるというソフト面。
そして360度作品の投稿に対応しているSNSの少なさ……などなどのハードル。

このあたりが、今のところまだ、世間一般に浸透しきっていない理由なのかもしれない。

風雨来記4と360度表現について書きたい

さておき、風雨来記の360度カメラ・イラストの使い方は本当に素晴らしい。
特に、バイク移動時での、360度見回せるツーリング表現は、おそらく今作で最も注目された部分だろう。

だが、今回自分が個人的に注目したいのは、静止画。
「実写写真+イラストでの360度表現」についてだ。
特に、次のみっつの要素。


・旅・バイクツーリングを体験させる、という強い目的意識が根底にあって撮影されていること。
・徹底的に、「主人公の視点=カメラ位置」にこだわり抜いていること。
・360度表現そのものを、演出として効果的に機能させていること。


360度カメラの映し出す世界は斬新なので、ついついそれ自体が目的になりがちだけど、本来作品に大切なのは、「それを使って、誰に、何を表現したいのか」だ。

風雨来記4では、360度画像を、プレイヤーを画面の中の「旅」に連れ出すために、つまり臨場感・没入観を与えるための手段として、採用している。

風雨来記4/2021 Nippon Ichi Software, inc./FOG


たとえば、風雨来記4のイベントシーンにおいての、特長的な表現のひとつに、「視点の高低差」を利用した構図表現がある。

360度カメラは、今一度繰り返すが、撮った瞬間、全周囲の景色を一枚に収めることができる。
一方で、このカメラ、風景を天球上に歪ませて描画するため、特徴として普通のカメラ以上に、高低差にものすごく影響を受ける

撮る高さが10センチ上か下かで、撮れる画面が大きく違うことがあるし、それによって見える印象もめまぐるしく変わるのだ。

170センチの人の見える景色と、150センチの人の見える景色を想像してみれば、わかりやすいだろうか。



風雨来記4では、カメラの撮影位置(アイレベル)を、主人公の目線の高さに統一している。
ヒロイン達よりも頭半個~ひとつぶん高い位置。

たとえば、主人公がベンチにすわった時。地面に座ったとき。しゃがんだとき。
あるいは狭いテントの中にいるとき。

カメラの高さもそれに追随する。

そうすると、通常時とは、ヒロインと主人公の目線の位置が変わる。
時には、主人公がヒロインを見上げる形になることもある。




それの何がすごいの、と思う人もいるかもしれないが、わかりやすいところを挙げるなら、まず写真を撮影するときにすでに、ストーリーやエピソード、最終的な構図の構想……要するに、どういう写真を撮るかがある程度決まっていないと、そもそも座った高さの写真を撮るという発想にならない。




たとえば、リリのイベントシーンは半分以上が、「隣で並んで座ってお話」している。
それは、半分以上の写真が、あらかじめ「座った目線の高さ」で撮影されているということでもある。


「風景を撮ると同時に、その向こうにある彼女との物語を撮っている」のだ。


風雨来記4/2021 Nippon Ichi Software, inc./FOG




ここに、「実写×イラスト」という風雨来記的な演出、「そこにいるような」臨場感がどこから来るのかを考える上で、非常に大きな、表現の独自性があると思う。





実はこの作品のイベントスチルは、「目線の高低差」によって、「ドキドキ感」「落ち着き」「焦燥感」などのプレイヤーへの心理効果や、「成長」や「停滞」、「変化」「未来」などの絵としての比喩効果まで表現している。


次回はこれについてもう少し踏み込んで書く。

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