全5回予定で、自分が風雨来記4について一番書きたかったテーマ「リリと主人公の関係性」について思う存分掘り下げて書きます。
これを書ききることが、自分にとって、風雨来記4に出会ってからずっと、一番の目標でした。
第二回。
今回の記事では、風雨来記4母里ちあり編及び風雨来記1、2の内容に深く触れます。
以下、ネタバレ注意。
「『お互いに変化し続ける』リリと主人公の関係性」について
第一回:「なぜ、リリの物語はあの選択で分岐したのか」について
「補足:成長と変化の違い」
第二回:「二人の間で起こっていた、変化の連鎖」の話
「過去作との対比で分かる、ちあり編のたったひとつの前代未聞」
第三回: 時系列でみる二人の変化(1)種蔵~國田家の芝桜
「『旅×お見合い』という革命」
「余白の考え方:ヒントは『会っていない時間』にある」
第四回: 時系列でみる二人の変化(2)下呂温泉(一周目)~種蔵
「日本の真ん中で田んぼに一番感動する彼女」の意味
「余白の考え方:テキストの外にどこまでも広がる旅の世界」
第五回: 時系列でみる二人の変化(3)下呂温泉(二周目)~橿森神社
「『面白い』が照らす、二人旅」
「母里ちあり編感想まとめ:平穏の中の最高の一枚」
第二回で語ること
- 母里ちあり編の過去作とのリンクについて簡単にまとめる
- 過去作を振り返ると見えてくる、ちあり編で描かれた『ブレークスルー』
- 相手の人生を背負う選択は、後悔しない、させないという実感から
- 『変化の連鎖』という概念の解説
- 20年ごしの「最高の笑顔」について
「キミがあり得ないって言った展開。
私がキミに、見せてあげるよ」
変化する/してしまうことへの心理
今回からは、風雨来記4において、一番強く自分の心に残ったこと。
自分の人生を変えてしまうくらい大きな影響を受けたテーマについて、さらに踏み込んで語っていきます。
前回書いた通り、このブログを始めたいちばんの動機は、これを考え、言語化して残しておきたかったからです。
ひとつの源流が、分水嶺を境に、日本海か、太平洋かにはるか遠く分かれていくように。
母里ちあり編二人旅エンディングにおいて描かれた「変化」――
「結婚という選択」は、「終わらない旅」をテーマとしてきた風雨来記シリーズに一石を投じる、非常にドラスティック(革命的)なものでした。
それは実際、これまでのシリーズではあり得えなかったレベルの展開。
様々な禁じ手を破った、風雨来記の出会いと別れのお約束を無視した、ととらえる古くからのファンもいたかもしれません。
自分も、ここまで突き抜けた展開になるとは全く想像していませんでしたが、前回や、他の記事→それでもいつか必ず別れは来る)で書いたとおり、自分の場合はなによりも「これは自分がこれまで追ってきた風雨来記の集大成だ」という衝撃を受けました。
ちあり編の物語は「風雨来記4」単独で、ひとつの作品として完成されています。
と同時に、これまでのシリーズで描かれてきた様々なテーマやモチーフを水面下で回収し、初代主人公「相馬轍」が追い求めた「最高の1枚」や「終わらない旅」というものに対し新しい解答を提示する、風雨来記シリーズの総決算的なストーリーでもあります。
過去作とのリンクの最たるものとしては「赤いバンダナ」が挙げられます。
初代主人公のトレードマーク。
他にも、「同じ場所で繰り返し再会」「服装の違いと記憶の欠如」「駆け落ち逃避行の話題」「仕事か恋愛かの葛藤」などは、初代風雨来記を思い出した旧作ファンも多かったかもしれません。
ですが、そうした分かりやすいオマージュにとどまらず、プレイ中はそうと気付かないけどエンディングを迎えて色々なものを振り返ってはじめて、「ああ、そういうことだったのか」と分かる情報(過去作をあらためてプレイしてはじめて気付くレベルの要素)も非常に多く、そうした大量の「点」を結ぶことで、リリと主人公のとった選択の意味をさらに奥行き――20年分の縁の積み重ね――のあるものに感じられるはずです。
ですので今回はこの部分について、
特に「1、2とちあり編の関連性」を中心にまとめていきます。
ここから、過去作未プレイの方はネタバレにご注意を。
20年分のリンク
以下は、いつか個別の記事を作るつもりで少しずつまとめていたもの。
まだ書きかけのメモ段階なので、内容をあまり精査できていません。
この場では細かく確認する必要はないですし、文字だけの情報ではあまりピンとこないと思うので、読み飛ばして下さい。
なんとなく過去作にはこんなこともあったんだなぁ、くらいの受け取り方で十分です。
ちあり編の、ともすればこれまでのシリーズのお約束や価値観を、一見覆したようにも思える展開。
結婚、お見合い、婿入り養子、地方移住、家庭を持つこと、フリーランスという選択――
これらの要素については、過去作において触れられてきたモチーフです。
主人公の追い続ける夢である「最高の1枚」のはじまりは、
旅の中知り合った男女(1主人公の両親)が「結婚」するきっかけの写真でしたし、
「お見合い」「婚約」「婿入り養子」に関しては、風雨来記1・滝沢玉恵編、森岡由美編や、風雨来記2・上原海琴編の物語において、向き合うべき重大な問題のひとつでした。
また、「地方移住」「旅人が旅をやめて、家庭を持つこと」については、風雨来記2の全体テーマのひとつです。
特に、芹沢夫妻のエピソードで、物語の根幹にかなり関わったテーマでした。
「あの人」とは、お世話になったオバアのこと。
芹沢氏の場合は取材を通して、沖縄の人や場所を好きになって、自ら移住を決めています。
そして、フリーランスに関しては、相馬轍がフリールポライターでしたから、
主人公は今回、憧れの人と同じ土俵に立った、とも言えるわけです。
では、ちあり編において何が本当の意味で前代未聞だったかといえば、
『主人公が、恋愛を選んで仕事を辞めるという選択をしたこと』
……ではありません。
その真逆、
『ヒロインが、主人公から仕事を奪う道を選んだ』
これに尽きます。
仕事を奪う勇気
結果的にはリリの実家の家業である農業を継ぎながら、フリーランスとしてルポライターも続ける、という結果に繋がったとはいえ、選択した時点ではまだすべてが未知数。
ヒロインであるリリが、主人公から仕事(≒夢)を奪うことになるかもしれない、という覚悟を背負って、真っ向からその一歩を踏み出したこと。
ヒロインの側から手を伸ばし、引っ張る。
同じ目線で手をつなぐ。
そして主人公も、覚悟の上ではっきりと自分の道を選び取る――――という一連の決断、二人の関係性があらわす意味は、「風雨来記」において、非常に、非常に大きいものです。
それは風雨来記の過去作に登場してきた多くの人物達が直面し、
様々な事情から、望みつつも、決して踏み込めなかった決断でした。
実際リリも、最初の旅では踏み出せなかったわけですし、自分としても、
リリがまさか、その選択をとるところまで行くとは、その瞬間まで思いもよりませんでした。
自分が想像していたのは、せいぜい、
ヒロインの行動をきっかけに主人公が関係を継続する方法を見つけ、会社に話をつけ、提案し、一緒に歩く道を見つけ出して、ヒロインに手を差し伸べる主人公起点の展開。(→芹沢暦)
互いを高めあうライバルとして、それぞれの夢を別々の場所で全力で追いかけ続けながら、遠く離れても心通わせ愛を育む、というような展開。(→上原海琴)
あるいは……リリが実家を継ぐことを放棄して主人公の夢についていく「駆け落ち逃避行」の展開。(→相馬夫妻)
二人旅エンディングがあるとしても、過去作で描かれてきたものの延長線にある、そういう形かな……と言う程度の想像でした。
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風雨来記1の時坂樹編では、ヒロインである樹の存在が大きくなりすぎて、旅の記事が上手く書けなくなる主人公に対して、彼女から、「私か、仕事か、あなたはどちらを選びますか」という問いがあります。
答えが出せないままに現実を先延ばしにする彼に、大切なものを今一度見つめ直させるための言葉。
風雨来記1では、滝沢玉恵編、斉藤冬編、森岡由美編でも、同様の葛藤があります。
様々な事情によって、決して「欲しいものすべて」は選ぶことができない。
そうした状況になったとき、どうするのか。
相馬轍は、仕事よりも恋愛を選ぶ、という選択をします。
天涯孤独な彼にとって、かつて失われた『誰かと築くあたたかな家庭』は、心の底から求めるものだったのです。
「キミさえいれば俺は他には何もいらない」
「君の為なら全てを捨ててもいい」と。
けれど、そのたびにことごとく、相手から諭されるのです。
「それはあなたの本心のすべてじゃ、ないでしょう?」
仕事を捨てて、旅を捨てて。
私といることだけを選べば、いつかきっと、あなたも私も後悔する。
あなたは、旅をする人だから。
いつかまた、自由な旅の空に向かってはばたきたくなる。
それを私のために我慢している姿を、いつか、私は必ず耐えられなくなる。
あなたを縛る自分を耐えられなくなる。
私は、旅をするあなたを好きになったのだから。と。
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相手の人生を半分……あるいはまるごと、背負うことになるかもしれない責任。
相手にとってその夢がどれだけ大事か十分に理解した上で、それでもそれを奪う覚悟。
あらためてこう書くと、20歳の若者に選ばせるにはものすごく酷な、本当に、重たすぎる選択です。
「最初の旅」の終わりでは、これまでの風雨来記のヒロインと同じく、主人公の背中を押すに留まったリリ。
リリがそこから「最後の一歩」を踏み出すために必要だった根拠。
そして主人公がその手をとるために必要だった根拠。
仕事を奪う勇気。
それはつまり、
「もし、この選択をすることで相手の仕事や夢を奪う結果につながったとしても、
後悔しない、させない、それ以上の楽しい未来へこの相手となら歩いて行ける」
と思えるだけの「実感」だと、前回の記事で書きました。
心から、そう実感できて、はじめて、
勇気を持って一歩を踏み出せるのです。
(橿森神社での謎行動をみると、「主人公の仕事も両立出来る道をあきらめない」というリリなりの信念もあったかもしれません。言葉では語られていないので、真意は彼女のみぞ知るところ)
変化の連鎖
お互いに影響を与え合って、自分が、相手が、どう変わっていくか分からない。読めない。
そんな「未知」を、お互いに、尊重し合い、楽しめる関係であること。
変化に対する不安や未練はあっても、それ以上に、変わり続けて楽しくやっていけると確信できるだけの実感。
自分が特に注目したいのは、「ありえない展開」に至るまでに、
旅の水面下で主人公とリリさんの間に起きていた、「変化の連鎖」です。
お互いに影響を与え合う「だけではなく」、与えた変化が形を変えて自分に返ってきて、それによってまた変化した自分が、さらに相手を変える。
二人の変化が交互に「連鎖」していって、
岐阜へ来た頃には思いもよらなかった結果へ転がった「変化」の面白さこそが、
ちあり編のストーリー構成の真骨頂だと思うのです。
たとえば、
「主人公から仕事を奪う決断をしたリリ」は、
「主人公の言動に影響を受けて、変化したことで、一歩踏み出したリリ」です。
ここが最初の旅と、二周目の旅の大きな違い。
同時に、
「リリに一歩踏み出す影響を与えた主人公」もまた、
「リリの価値観の影響を受けて、変化し、一歩踏み出した主人公」なのです。
この変化の連鎖は、一体いつ、どこから始まっていたのか。
これを意識しながらちあり編をはじめから見ると、本当に、めちゃくちゃ面白いんです。
少し自分の話になりますが、筆者は、ちあり編の二人旅エンドにどうしても自力で辿り着きたくて、ちあり編を何度も何度も、十数回は繰り返しました。
セリフや、選択肢をノートにまとめ、整理しながら、ずっと考えていました。
何が、エンディングが変化するトリガーになるか分からないので、ひたすら選択肢を変え、また戻して、言動を深読みしたり、巡るスポットを変えてみたりして。
ゲームをしている時間以外にも脳内やノートで情報整理していたので、
この期間は、仕事以外の時間は生活ぜんぶがひたすらリリさん一色でした。
あまりに成果が出なくて、途中、他のエンディングなんて実はないんじゃないかと弱気になることもありましたが、試行錯誤の甲斐あって、二人旅エンドへの分岐にとうとう到達して、ようやくリリさんの手をとることができました。
そんな紆余曲折を経て、選択肢の意味や彼女の変化を自分なりにずっと考え続けたからこそ、見えてきたこと、気付いたことがたくさんあります。
たとえば、リリさんの印象的な言葉、
「結婚はスタート地点」。
主人公が彼女と歩く道を選んだきっかけのひとつであり、
物語の中でも、モノローグで何度も語られた考え方。
最初に芝桜でこの会話を見たときには、
彼女の達観ぶりに、驚きつつも感銘を覚えたものです。
ほんとに20歳前後かよ、と。
種蔵やモネの池のときとは印象が違うなぁ。
しっかりした考え方を持った、強いコだったんだなぁ、と。
しかし、二周目であらためて最初から見なおせば、
リリさんが東京へ出た理由の半分は、結婚から逃げるためと語っています。
(もう半分は、漠然とした憧れ)
岐阜に着いたばかりの頃の彼女は、間違いなく、
「お見合いなんて時代劇の中の話だよ!」
という価値観だったわけです。
つまり「岐阜に来て、お見合いについてに色々考えた」結果たどりついたのが、「結婚はスタート」という考え方であり、「お見合いも嫌じゃない」という価値観なのです。
ではいつ、どのタイミングで、具体的に何をきっかけにして、
「お見合いなんて嫌」から「お見合いもあんまり嫌じゃない」に変化したのか。
そして、「結婚はスタート地点なんじゃないかなって思うようになった」のか。
これについて、時系列順の詳細を次回記事以降にがっつりまとめていきますが、
大まかな流れは以下のようになります。
主人公と出会い、岐阜を巡る旅で思うところがあって、リリの価値観が変わる。
前「お見合いなんて時代劇の中の話」
↓
後「頭ごなしに否定せずちゃんと話してから、判断してみようかな」
リリの新しい価値観によって、主人公の価値観が変わる。
前「お見合いや結婚なんて考えたこともない」
↓
後「なるほど一理ある。関係無いと思わずこの機会に考えてみよう」
リリによって変わった主人公によって、リリの価値観がさらに変わる。
前「うんうん、キミなら絶対こっちを選……」
↓
後「んでない?!」「私はそういう風に考えたことなかった…」
リリが「これまでの自分なら選ばない選択」(メタ的には一周目では選べなかった選択)を選ぼうとするのを見て、主人公が、
前「あのとき、俺は仕事を選んだ。リリと過ごす中で俺は変わったのだろうか」
↓
後「俺が今選ぶのは……」
選ぶ答えが以前と「変化した」主人公に対して、
前「あのね……なんでもない」
↓
後「あのね……私と歩いてくれる気はありますか」
「変化した」リリが踏み出した最後の一歩によって、主人公は決断する
「俺の中の答えは、もう決まっている。とるべき道は、一つだけだ」
そして、
前―― 最初の旅では、
リリが、全力の笑顔で主人公を見送ってくれました。
↓
後――
「もしもしー、未来の旦那様の上司様?」
「あはははははははは!」
「わお、キミがこんなに笑ってるところ、初めて見たかも!」
かつて、相馬轍の記事に影響を受けて最高の1枚を追いかけた一人の旅人が、時を経て、世代を経て、本人さえ「いつぶりか分からない」くらい心から、笑いました。
笑って、笑って、満面の笑顔で、景気づけに、ふと、1枚の写真を撮りました。
最高の1枚を撮るために必要なのは、最高の場所。
最高の場所には、最高の笑顔がある。
初代風雨来記において、『おまえが、本当に笑顔でいられる場所を探す旅』が、
主人公・相馬轍の父親が、最期に遺した言葉。
その言葉をたよりに、轍は最高の場所を求め、旅し続けていました。
笑顔になれる場所
岐阜の旅の終わりの、一枚の写真。
リリが満面の笑顔なのは、そこに写っているリリだけじゃなく、それを撮っている主人公もまた、楽しげな、最高の笑顔を浮かべているからです。
そこに写っていない、「撮るもの」の感情も写し撮った1枚。
ふたりの間に行き交う笑顔。
笑顔の連鎖。
きっと、ここから先も。
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40年前
20年前
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まとめ
互いが互いに影響を与え合って、変化し続けていく。
そんな関係を、岐阜で出会ってから、
岐阜を出発するその瞬間まで繰り返したふたり。
自分と相手の変化を互いに面白がり、そこに大きな価値を見いだせるふたり。
かつて誰かが夢描いたみたいに、笑顔で照らし合えるふたり。
だからこそ、この先もそんな風にふたりで楽しくやっていける、と未来にワクワクできます。
エンディングのこの瞬間がゴール、ではなく、ここはまだやっとスタート地点。
この二人旅には、まだまだこの先にも最高があって、互いに影響を与え合い変化し続ける限り、どこまでも何度でもいつまでも、最高の場所を更新していけるのです。
生きている限り、すべての人に等しく、いつか必ず別れの日は来る。
それは100年後かもしれないし、明日かもしれない。
いつかは分からないその日を闇雲にこわがるのではなく、
大切な存在と過ごす一瞬一瞬を無駄にしないために、
全力で「今日」を楽しんで、「最高の時間」を一歩一歩重ねていくこと。
言葉にするととても長くなりましたが、リリさんの物語を通して、こうしたテーマを強く感じたからこそ、自分はそれを言語化して、何度もかみくだいて、自分の感じた「最高」を、これまでも、これからも、全力で語りつづけたいのです。
次回は、リリと主人公の出会いから時系列順、エピソード毎に、具体的にどういう形でふたりの変化が起こっていたのか、変化の連鎖について子細に見ていきたいと思います。
コメント
素晴らしい記事の数々、ありがとうございます。
私も風雨来記のシリーズを1から追ってきた一人として、4のちありEDには度肝を抜かれました。リリさんルートで感じた過去作のエッセンスを、ここまで丁寧に拾い上げていただいて、新たな発見もありつつスッキリしました。過去作を経てたどり着いた、珠玉のシナリオだと思います。
これからの主さんの活動も楽しみにしています。
読んでいただき、ありがとうございます。
新しい見方の一助になったなら幸いです。
ちあり編、未来を向いているのに過去も幸せになってしまう、とんでもないシナリオだと思います。
とはいえ、過去作とのリンクは、あくまでもちあり編とリリさんの魅力のほんの一部分。
これからももっともっと、尽きることない感想を書いていきます。